なぜ企業は海外に進出するのか?~途上国が求める海外直接投資~

なぜ海外に進出するのか?なぜ自社はこの国を選んだのか?

もちろん多くの駐在員の方々はその理由をご存じだと思います。

この記事はそもそも論です。

しかしだからこそ、今後このブログを見ていただく上で、重要になる視点になりますので、KG Blogを気に入っていただけた方には是非、是非読んでいただきたいです。

なぜ企業は海外に進出するのか?

さて、改めて企業の進出理由を考えていきましょう。

企業さんの進出理由は大きく以下の6つの理由に分けられると思います。

  1. その国を市場として自社の製品・サービスを販売する(製品・サービス全般)
  2. その国の労働力で製品を作る(製造業 特に縫製業、農業、ITのオフショア開発 等)
  3. その国の資源を製品・原料とする(天然資源、農作物 例えばカカオ等)
  4. その国の企業・資産を活用する(不動産、株式投資、ベンチャーキャピタル 等)
  5. その国の知的ネットワークを活用する(研究開発 等)
  6. 規制強化等により別の国から追われた製品を作る(例えば、中国環境規制強化による生地の染色事業 等)

※ 販売網強化は①に、輸入強化は③のように、既存のビジネスの強化はそれぞれに含まれるものとします。
※ 完全な慈善事業での進出は含みません。

途上国が求める海外直接投資

途上国は自国の経済成長のため、海外からの投資(外資系企業の進出)を求める場合が多いです。

それは、付加価値の高い製品を作る技術が欲しいからです。

例えば、縫製業しか製造業がない国ですと、先進国になるのは難しいです。

もちろん海運や金融等のサービス産業がとてつもなく高度化して、、、というような可能性はゼロではないのかもしれませんが、今のところそのような国はありません。海運や金融だけと思われがちなシンガポールにも工業団地があり、製造業があります。

なので、縫製業しかない国は、家電輸入商社をビジネスを立ち上げ、ボリュームが大きくなっていったら、家電の組み立て生産を始め、だんだんとその家電の部品を自国内で生産できるようになっていくような、より高度な産業の広がりが必要です。

特に自動車メーカーを国内に持ってこれれば、次第に何層にもなる部品を作る下請企業も投資し始めるので、その経済効果は半端ないわけです。

日本自動車工業会によれば、日本の自動車輸出額は62兆3,040億円です。途上国からすれば、もはや何言っているかわからない金額です。

もちろん、製造業以外の選択肢もあるかもしれません。

特に金融業、IT産業はその付加価値も非常に高く、途上国でも注目されている産業ではあります。

しかし、そういった産業はほとんどが大卒以上の学歴が必要です。

途上国の場合は、小学校すらまともに通えなかった貧困層が多いので、雇用規模はどうしても小さくなってしまいます。

もちろん例外はあります。バングラデシュではCoders Trustという企業が低所得者層向けのオンラインIT研修(英語研修も含む)を提供しはじめ、学歴のない方々がフリーランサーとしてシステム開発ができるようになっているような事例もあります。

ただこれは例外であって、本流はやはり雇用規模が大きい製造業が特に途上国では主流にならざるをえません。

なので、途上国はより付加価値の高い製造業、特に自動車産業に投資をしてもらいたいと考えているのです。

では投資をしてもらうために何をしているか、というと答えは関税をかけ、国内で製造した方が得になる仕組みにしています。

例えばバングラデシュに車を輸入した場合、排気量によりますが100%以上の関税がかかります。
つまり100万円の車を輸入すると、手元に届いたときには200万円になっている、ということです。

バイクの場合、完成車を輸入すると120%の関税がかかります。しかし、現地で組み立てを行う(ノックダウン)と関税が90%に下がります。

※ バングラデシュには輸入する際に6項目で税金がとられ、そのうちの一つが45%⇒20%になったということです。

他にも工業団地の開発や免税の特権なども与えているようなことがありますが、現地生産に踏み切る一番の要因は関税緩和です。

途上国ラブコールに外資系企業は?

途上国からのラブコールに企業がどう答えるかですが、なかなか簡単にYesといえないのが現状です。

自動車産業の工場を移転させるためには、数百億から数千億(もしかしたら数兆)の建設費用等をその企業が支払わなければなりません。

子会社ももちろんその国に進出していないので、結局部品は関税を払って輸入しなければならない状況になります。加えて、同国内にないので、今までの計画生産タイムラインに乗らない可能性も高くなってきます。

また、金はいくらでもあるけれども、二輪車や自動車がないから買えない、という国は、経済制裁などで貿易を制限されている国でもなければ、世界に存在しえません。なぜかというと、名だたる日系メーカー、欧米メーカー等が世界中に大規模な工場を持っており、計画生産をしているからです。

要は、需要と供給が一致するように調整して製造しているんです。

であれば、既存の工場のラインを数十億から数百億(少なくとも新規立ち上げよりは少ない金額で)で増設し、その国には輸出した方がよいのでは、と思うことが多いのではないでしょうか?

この記事によれば、自動車の販売価格に占める人件費は20%程度です。高級車になればよりその%が少なくなっていきます。

テスラモーターズのイーロン・マスクは工場を全自動化することを目標に掲げていましたが、今後の投資額次第では製造にかかる人件費をほぼゼロにすることができるようになるかもしれません。付加価値の高い産業にとって、安い人件費というのがどんどん響かなくなってきているのです。

こうなると「人件費が安い」だけでは投資した分の回収は難しいので、やはりその国がどの程度市場として魅力があるか、がカギになるでしょう。

途上国は外資系企業を呼び込むために何をすればよいか?

以上のことから、途上国が外資系企業(特に自動車産業)を呼び込むためにできうることは、以下の4つがあると思います。

経済連携(自由貿易協定FTA・経済連携協定EPA)を結ぶ(難易度:高 時間:中 効果:中)

自動車製造をしている国と、FTAやEPAを結んでしまう、というのがあります。

基本的に途上国(特に後発開発途上国)は、世界貿易機関(WTO)などから保護を受け、先進国と最恵国待遇で貿易することができています。そのため、FTAやEPAを結ばずとも、対先進国向けに有利なビジネスができるので、自らFTAやEPAを結ぼうというインセンティブがまず働きません。

しかし、自動車産業を呼び込みたい、ということであれば、FTAやEPAを結ぶという戦略はありです。

例えば日系メーカーを狙うのであれば、中国やタイとFTA・EPAを結ぶことで、メーカー本体は難しくても自動車産業の裾野にある労働集約型の産業(例えばワイヤーハーネス 等)を一部呼び込むことができるかもしれません。そこから、少しずつ部品数を増やしていき、最終的にはメーカーを呼び込む、という戦法です。

逆にFTAやEPAがないと先進国以外の国との貿易は関税がかかってしまうので、この一部工程を引き抜くことが非常に難しくなります。

インフラを整備する(難易度:中 時間:中 効果:低)

これは国のレベルによって違うかもしれませんが、例えばバングラデシュは日々大渋滞です。インドネシア人が「インドネシアよりも渋滞がひどい!」といっていましたが、確かに1時間同じ場所から動かなかったこともありました。にもかかわらず自動車の新規登録台数は30万台程度、全体で350万台程度です。

一方、日本は新車で500万台以上が毎年売れています。渋滞がすごいこともありますが、さすがに1時間同じ場所にス停滞するようなことはよほどな大事故でない限りないでしょう。

このように、そもそも自動車産業を呼び込むためのインフラが整っていないので、「この国での投資はまだ難しいだろうな」となってしまうわけです。

また生産インフラについてもちゃんと安定的に電気が供給されるか、地盤のしっかりした場所に土地があるかなども非常に重要です。

自動車産業にとっては、物流も非常に重要です(ジャストインタイムです!)。いかに在庫を少なくするか、に注力するので、港からすぐ部品や原材料が届かないと大きなコストアップにつながってしまいます。

特に途上国は、大渋滞は都心部だけでなく、港でも起こっていたりします。経済発展に必要な物量が、既存の港でハンドリングできる規模を超えてしまっているのです。

これらを根気よくきれいにするのには、ある程度時間がかかりますし、一筋縄ではいきません。

ただこれは、自動車産業だけでなく、すべての産業にとってメリットとなることです。

来る来ないにかかわらず、途上国が自国の経済を円滑に回すために必要なことなので、どの国も自国のインフラをよくするために政府支出や借入による投資を行っています。

人口を増やす(難易度:激ムズ 時間:長 効果:大)

そして、最後かつ最も難関にもかかわらず、最も効果的なのは「人口を増やす」という方法です。

なぜ中国やインドにこぞって企業が進出しているか、というとその理由は簡単で、「超巨大市場だから」です。

インドや中国は人口13~14億人です。世界人口75億人のうち、15%~20%に当たります。

もちろんインドなどは州によって国が違うかのような制度・政策の違いがありますが、とはいえ全体の15%~20%といわれると無視できないです。

ただ、人口ボーナスの回でも言ったように、特に途上国においては、経済成長を促す人口ボーナスと逆行します

また食料危機を脱するために、無理やり人口を減らすような政策をとる国もあります。

こういった国はもちろん、人口を増やすことは難しいでしょう。

外国人を受け入れるにしても、例えば先進国から途上国に完全移住するような方は多くないと思います。

企業に補助金を払う(難易度:(お金があれば)易 時間:短 効果:大)

すごく単純かつ圧倒的な方法として、呼び込みたい企業にお金を払ってしまう、というのが一つあり得る方法です。

その企業が必要な金額(投資額全額、利益保証 等)を言い値で払えば、どこか1社は来てくれるのではないかと思います。

おそらく世界的なメーカーであれば、お金をもらったからと言って怠けるようなことはないと思うので、その国で産業を興して回るまで、きっと全力で走ってくれるはずです。

 

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

特に「途上国は(高付加価値な)外資系企業を呼び込むために何をすればよいか?というのは、駐在の後半に考え続けた結果、アリではないかな?とおもったのは、最後の「外資系企業が進出してくれた場合に補助金を払う」、そしてひたすらにその企業を優遇しまくる。という方法です。

もちろんこんなことをしている国はありません。ただ、それくらいしないと市場の小さい途上国が製造業の巨大外資を呼び込むことは難しいと思います。

もし画期的なアイデアを思いついた方がいらっしゃったら、是非ご意見いただければと思います。

ちなみに、この先進国と途上国の貿易問題を、南北貿易戦争(南:途上国、北:先進国)と言ったりします。

南北貿易戦争は付加価値貿易の考え方も踏まえ、また別の記事で解説したいと思います。

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