途上国に駐在では、スタッフが少ないことがほとんど。日本人は1人、という場合も少なくありません。
本社には赴任地のレポートを求められます。自分のビジネスのことはわかっても、その他の経済事情や制度情報はちょっと…という方も多いのでは?
今回は「途上国の成長条件とその限界」というテーマで書いていきたいと思います。
かなり難しいテーマのように見えるかもしれませんが、なるべくわかりやすく伝えたいと思います!
途上国の定義
そもそも途上国とはどういう国なのか、確認することから始めたいと思います(今更か、、、と思わずついてきてください)。
他力本願で恐縮ですが、まず最初にアジア経済研究所の熊谷先生が書いた以下の記事を読んでください。わかりやすすぎます!!
「発展途上国」は経済が「発展」する「途上」にある国であって、「先進国」は経済発展によって経済が世界でも「先進」的な水準に…
国際基準は世界銀行(WB)が出していて、先進国と途上国の境目は一人当たりの国民総所得(Gross National Income=GNI)が12,235USドルである、と言っています。明確ですよね。
日本の内閣府の基準では、先進国を一人当たりのGDP10,000USドル以上のOECD加盟国としていたこともありました。なので、わかりやすさから、一人当たりのGDP10,000USドル基準に考える方もいらっしゃいます。
そして、国際連合(UN)は途上国の中でもより開発が遅れを取っている国々を後発開発途上国(Least Developing Countries=LDC)と定義しています。
LDCは以下の3つが当てはまる国をいい、そのほとんど(33/47)がアフリカにあります。
(2)人的資源開発(栄養不足人口の割合、5歳以下乳幼児死亡率、妊産婦死亡率、中等教育就学率、成人識字率)が悪い
(3)外的ショック(貿易や自然災害等によるショック)に弱い
なお、GDPとGNIの違いについては以下の記事で分かりやすくまとめています。
途上国に駐在では、スタッフが少ないことがほとんど。日本人は1人、という場合も少なくありません。本社には赴任地のレポートを求められます。自分のビジネスのことはわかっても、その他の経済事情や制度情報はちょっと…という方も多いのでは?[…]
途上国の成長過程その1
さて、まず途上国、中でもLDCはどうするかというと、UNが出している基準をクリアしようと頑張るわけですね。
もちろん、その国の状況によって優先順位が変わる場合はありますが、特に初期は(2)人的資源開発が重要指標になります。
例えば、以下のようなことが考えられます。
・乳児死亡率、妊産婦死亡率の低減
・就学率・識字率向上
栄養不足解消
- 炭水化物(米、小麦等)系の農作物の増産
- タンパク質(鶏肉、魚介類、大豆、緑豆等)系農作物の増産、養殖
乳児死亡率、妊産婦死亡率の低減
- 医師、看護師の増員、教育
- 感染症対策(破傷風、マラリア等)
就学率・識字率向上
- 学校の増設
- 初等教育の義務化
国家単体で是正できない場合は、国際機関が協力しています。多くはUNの関連団体である場合が多いです。
例えば食糧系は国際連合世界食糧計画(WFP)、農業系は国際連合食糧農業機関(FAO)、教育や妊婦系は国際連合児童基金(ユニセフ)などがあります。
また、日本でいえば国際協力機構(JICA)さんもこの分野で多大なる貢献をしています。
途上国の成長過程その2
なんとか前半戦を乗り切りると、次は(1)一人あたりGNI:1,025USドル以下、(3)外的ショック(貿易や自然災害等によるショック)に取り組んでいくことになります。では具体的にどのような政策が考えられるのでしょうか?この解答として、以下の3つの政策が非常に重要だと考えます。
・公共事業の拡大
・純輸出の増加
人口ボーナスの創生
「人口ボーナス」が起こると、従属年齢人口(ご高齢の方々と子供)の割合が減り、生産年齢人口(15~64歳)の割合が増えるので、一人当たりにならしたGDPやGNIが増加していきます。
例えば、中国で「一人っ子政策」という政策がとられました。
もちろん「一人っ子政策」は急激な人口増加に農業生産量がついていけない状況に対応するためでした。一方、経済成長という意味では、従属人口の増加を抑え、人口ボーナスを創生し急激な経済成長を起こすという意味でも、重要な政策であったと言えます。
バングラデシュの労働法では、3人目の出産から出産給付金を受けられなくなる規定があります。
始まりは食料危機の場合もありますが、人口ボーナスを引き起こすために、出産により増える従属人口を抑えるための政策を国が主導していきます。
人口ボーナスについては以下の記事にて細かく説明していきます。
日本人が駐在する途上国の多くは、勢いよく経済成長している国々がほとんどです。そしてその多くは人口ボーナス期に突入しています。この人口ボーナスは経済成長する重要な要因の一つである、と考えられています。「人口ボーナス」という言葉[…]
公共事業の拡大
GDPは民間消費+政府支出+投資+輸出ー輸入により、算出されることは説明しました。GNIもGDPに少し手を加えた数字なので、国単位のGDPを伸ばすことで一人当たりのGNIを伸ばすことができます。
特に政府が簡単に介入できるところはどこでしょうか?それは一目瞭然ですね。「政府支出」になります。
公共事業をどんどん行えば、それによりGDPは増加していきます。
バングラデシュで行われた公共事業でいえば、火力発電所の建設、大型の橋の建設、電車の敷設、港の開発、上下水道の開発等が挙げられます。
公共事業を行えば雇用が生まれ、雇用された現地の方々がその雇用されて稼いだお金を民間消費に回していきます。これにより民間消費も喚起できることになります。
ただし、公共事業の多くは途上国の技術力の限界などもあって、自国内ですべて調達することが難しい場合が多いです。天然資源が豊富で輸出し放題な国を除き、外貨もほとんどないことが多いため、国の経済を発展させたくても金銭的に公共事業が行えない途上国はたくさんあります。
そういった途上国に対してお金を貸し付けているのが、世界銀行やIMF等です。日本も国際協力機構(JICA)さんや国際協力銀行(JBIC)さん等の組織がお金を貸し付けています。
途上国は貸し付けられたお金を使って外資系企業の力を借り、公共事業を行います。例えば清水建設さん、大林組さんといった日本トップレベルの建設会社さんや三菱商事さん、住友商事さん、丸紅さん等の商社さんがこういった公共事業に参画しています。
純輸出(輸出ー輸入)の増加
GDPは民間消費+政府支出+投資+輸出ー輸入により、算出されますので、純輸出を増加させるのも非常に重要な政策です。
途上国の場合は、自国で産出される天然資源(天然ガス、鉱物資源等)、農作物、軽工業品(アパレル製品)などが主要な輸出製品になります。
しかし、天然資源は自国の発展のためにも重要なものである場合が多いです。例えばミャンマーは産出される天然ガスを輸出していますが、停電が頻発しています。自国の火力発電に回せばよいのですが、これ以上貿易赤字を膨らませることが難しいため、苦肉の策で天然ガスを輸出せざるを得ない状況です。また農作物も自国の栄養不足を解消させるために必要なものを輸出するわけにはいきません。
また、アパレル製品などの軽工業品は輸出したとしても付加価値が低いので、より付加価値の高い工業製品(家電、バイク・車等)を自国内で製造したいと考えるようになります。
もちろん途上国はそういった工業製品を自国で生産することができません。なので、先進国等からそういった工業製品を作れる外資系企業を誘致し、付加価値の高い製品を輸出してもらういたいと考えます。
加えて、外資系企業が途上国に工場を作れば、そこで投資分野でもGDP増加に貢献します。
外資系企業を呼び込むために途上国は、工業団地を整備したり、税制を優遇したりして、外資系企業が自国で生産するよりも効率的に生産できる環境を創り出す必要があります。工場を移転させるというのは、企業にとって非常に大きな決断ですから、進出したいと思わせるメリットを大きく打ち出さないとなかなかその国に進出しよう、と思いにくいところはあります。
メリットがあまりないと感じると、結局「安い人件費」目当ての付加価値の低い産業しか途上国にやってきません。特に東南アジア、南西アジアでは外資系企業の誘致合戦が始まっていて、単に外資系企業に魅力的な投資環境なだけでなく、近隣の途上国と比較してもなお魅力的である必要性があります。
なぜ企業が海外に進出するか以下の記事でも説明しています。
なぜ海外に進出するのか?なぜ自社はこの国を選んだのか?もちろん多くの駐在員の方々はその理由をご存じだと思います。この記事はそもそも論です。しかしだからこそ、今後このブログを見ていただく上で、重要になる視点になりますの[…]
経済成長を続けるには? ~中所得国の罠~
途上国は先進国を目指して、数々の政策を実行しています。
途上国が経済成長の波に上手く乗ると、毎年5%~8%、すごい国だと10%の成長を繰り返します。
いわゆる複利効果で後発開発途上国は、一人当たりGDPが1,000USD程度から一気に10,000USDに駆け上がる算段です。
近年数々の国が先進国となるべく、目覚ましい経済成長を遂げてきました。
しかし、先進国になる前に経済成長率が2%~3%程度に落ち込んでしまい、なかなか先進国になれない途上国が出てきています。
これらの国は「中所得国の罠」にハマってしまっているとされています。
具体的には、アルゼンチン、ブラジル、チリ、マレーシア、メキシコ、タイがこれらの罠にハマってしまった国と言われています。
この内閣府の記事では、人口ボーナス期から人口オーナス期に入った際に経済成長が落ち込むことに対して否定的ですが、個人的には経済成長の引き金が人口ボーナスであったので、人口オーナスが経済停滞の要因であることに相関性はあると考えます。(生産年齢人口の増加率が減少するというよりは、全人口に対する生産年齢人口の比率の増加が重要であるので、うまく言葉がすり替えられているような気がしなくもないです、、、)
ただ、記事の言っている技術革新、産業の高度化、海外企業の国内投資促進などが、罠から脱するために必要な政策だと考えられています。
人口ボーナスで成長機運の高いうちに、いかにこの3つの政策を進められるか、というのが先進国への道のりで最も重要な観点です。
とはいえ、この3つを推し進めるというのは、後発の途上国にはかなり酷な話になっています。
今回はかなり長くなってしまったので、ここまで。
別の記事でなぜ酷な話なのかも説明していきたいと思います。